ドリーム小説
ねぇ、エース
貴方を眠りの世界に引き寄せているのは誰なのでしょうね
エースはよく眠る
それはもう赤ん坊のように、暇があれば所構わず寝ている
また、周りの人をびっくりさせるのは時を構わずいきなり寝始めることだ
食事中、入浴中、掃除中、会話中、それはもう突然にがくりと頭を垂れて寝始めてしまう
今だってそうだ
新しい年に向けて陽が昇る。水平線から顔を出す太陽に人々は高揚し酒を煽っていた
「初日の出じゃねぇか。めでたいねぇ。よっしゃ、んじゃもう一回乾杯でもしますかね。おいエース、乾杯するぞ!」
「エース隊長、寝てまーす」
「なに?またかよ。こいつ、一晩に何回寝りゃ気が済むんだ」
そう言ってサッチさんはグラスを持ったまま船漕ぐエースの額にバッチンとデコピンを放った
エースの頭が後ろに倒れて、寝ていた彼の口から「いてぇ!」と悲鳴があがる
「いってぇな・・・くっそ、何すんだっ」
「おら。お天道様がお前ぇの誕生日を祝ってくれてんだ。乾杯するぞ、乾杯!」
サッチさんはエースのグラスになみなみと酒を注ぎ、大きな声で「かんぱーい!!」と叫んだ
モビーディックの広い甲板の上。初日の出を拝みながら白ひげ海賊団一行はグラスをぶつけあう
その宴会の中心にいるのは親父様ではなく、今日に限ってはエースだった
「エースの誕生日に乾杯!!」
「隊長、おめでとうございまーす!!」
一年の始まりとなる今日。本日20歳の誕生日を迎えるエースを仲間全員で祝った
サッチさんやビスタさんに頭を撫でられぐしゃぐしゃにされながら、エースは零れんばかりの笑顔を浮かべている
私はそんなエースの様子を少し離れたところで、マルコ隊長とグラスを傾けながら見守っていた
「もっと近くで祝ってやらなくていいのかよい」と言われたが、私は笑って「後で行きます」と答えた
そんな会話をしていれば、エースのいる辺りからまたお決まりの声が聞こえてきた
「あ!またこいつ寝やがった」
「ホントいきなりっすよね。あーあー、顔中ミートソースべったべた」
「てか、顔埋もれってけど息できてんのか、これ」
「おい、エース。生きてるか〜?」
パスタの大皿に顔をつっこんだまま起きないエースを囲んで仲間たちが笑い合っている
そんな様子を遠目に見て、私の隣で隊長も「しょうがねぇ奴だよい」と苦笑している
みんなが賑わっている。それなのに、どうしてか私は笑顔になれなかった
料理に顔を埋めたまま起きる気配のないエースの背中をただ見つめていた
ねぇ、エース
貴方を眠りの世界に引き寄せているのは誰なのでしょうね
太陽が真上にあがった昼時
いまだに甲板で宴会を続ける数人を除いて大半の者は大部屋に寝に戻ってしまっていた
私はポカポカとした陽ざしが気持ちよくて、静かな場所を選んで一人ひなたぼっこをしていた
無防備に大の字に寝転がって青い空を見つめていたら、ふと真上から機嫌の良さそうな顔が覗き込んできた
「エース?」
「よぉ」
短い挨拶をして、エースは私の隣に座り込んできた
私も両手を後ろについて支え、上半身を起こす
胡座をかいたエースは上機嫌で私を見つめる。その理由をよく知っている
「サンキューな。アレ」
「いえいえ。どういたしまして。すみません、あんな安物のプレゼントで」
「んなことねぇって。すっげ嬉しい」
エースは白い歯を見せて本当に嬉しそうに笑う
何のことかというと、それは私がこっそり彼の部屋に置いておいた誕生日プレゼントのことだった
彼に似合いそうなシャツを数枚贈ったのだが、どうやら気に入ってくれたらしい
「エース、誕生日おめでとうございます」
改めて彼にお祝いの言葉を贈れば、エースは「おぅ!」と満面の笑みをみせた
まるで少年のように純粋な笑顔を
その笑い顔はどことなく彼の弟に――彼の部屋に貼ってある手配書の顔に似ていた
(ほんと・・・いい笑顔・・・・・・)
彼の笑顔につられて私もついつい笑顔になっていく
と、気が緩んだ瞬間
またしても彼は突然に、瞬時にして、その意識を眠りの世界へと飛ばしてしまったのだった
まるで電池が切れたロボットのようにガクリと頭が垂れ、そしてバタリと上半身が倒れた
「え・・・、エース・・・?」
「zzz・・・」
倒れた彼はなんと私の足の上に頭を乗せてぐぅぐぅと寝始めた
俗に言う膝枕の状態に、私もどうしていいかわからず、そして身動きもとれず
「本当にいきなりですね・・・」
ハァとため息をつき、とりあえず私はそのままでいることにした
エースがいつ起きてくれるかわからないが、無理に起こしてしまうのも可哀相だ
それに今日は彼の誕生日だし、まぁこれぐらいいいかなと思っていたのだが
「人の恋人の膝奪って枕にするたぁ、随分といいご身分じゃねぇかよい」
「・・・!!」
これぐらいいいかな・・・と思ってくれない人がタイミング良くやってきてしまったようだ
マルコ隊長の声に思わず肩が強張る
動けないまま首だけを後ろに向ければ、いつの間にか海に面した手すりの上に隊長が不良座りで座っていた
「今日は随分とエースに甘ぇじゃねぇかよ、」
「隊長・・・」
「膝枕なんて俺にもやってくれねぇのになぁ」
「う・・・」
あからさまな嫉妬だと私にもわかった
じとぉっという目で見下ろされ、私は圧されながら困った顔で笑う
「あの、誤解なさらないでくださいね。私から勧めたわけじゃ、」
「わかってるよい。どうせそいつのことだから、またいきなり寝ちまったんだろ」
「はい。で、起こすのも悪いかなぁと思って」
「しょうがねぇ奴だねぃ。ま、けど誕生日だからな。今日だけは特別に見逃してやるよい」
「じゃ、誕生日ではない日だったら」
「速攻で蹴り飛ばす」
「・・・目が本気ですね、隊長」
やると言ったら本当にやるのだろう、この人は
苦笑いを浮かべる私を尻目に、隊長は手すりに腰を下ろして足をぶらつかせ始めた
腰のポケットから煙草を取り出して火をつけ、旨そうに一服を始めた
「あぁ・・・良い天気だねぃ」
「・・そうですね・・・」
隊長が吐き出した紫煙が海風に乗って流れていくのを見送る
私はエースの方へと顔を戻し、風になびく癖の強い黒髪を見下ろした
人の両足を枕にして、すやすやとよく眠っている
(睡眠障害・・・・・ナルコレプシー、だったりして)
あまりにも穏やかに、怖いくらい静かに眠っているから、思わずそんなことを考えてしまう
(睡眠薬なんて飲んでないし。・・・まさかツェツェバエによる眠り病・・・・・ではないよね)
起きる気配のない彼の頭を、私はそっと撫でてやった
潮風に傷んではいるが、思いの外柔らかい髪は肌触りが心地よくて何度も撫でたくなる
起こさないようにそっと撫で続けいると、彼は寝相を変えて上向きから横向きへと体を変えた
もぞもぞと身じろぎする様子がなんだか幼い少年のようでくすりと笑えた
(ねぇ、エース・・・)
貴方を眠りの世界に引き寄せているのは誰なのでしょうね
貴方の寝顔を見ていると、私は時々怖くなるのです
貴方の寝顔はあまりにも穏やかで、安らかで
まるでもう二度と目を覚まさないのではないかと思わせられるのです
(ねぇ、エース・・・)
親父様も、マルコ隊長も、サッチさんも、私も、みんなが貴方の生を望んでいるというのに
貴方の安らかな寝顔はまるで、早くこの世を去りたいと言っているかのようで
「ん・・・」
「・・・――」
茫洋とそんなことを考えていれば、不意にエースが身じろぎして体を丸めた
後ろから隊長に「起きたのか」と訊かれ、私は少しだけ後ろを向いて「いえ、まだ寝ています」と答えた
エースの方に顔を戻し、再び彼の横顔を見下ろした
黒髪を撫でていた手をゆっくりと止め、私は眼を細めて彼の顔を見つめた
(笑ってる・・・)
陽の光を浴びて、緩やかな風に髪をなびかせ、彼は静かに笑って眠っていた
その安らいだ寝顔に、私は言葉にできない不思議な気持ちになる
「エース・・・」
私は彼の髪を撫でていた指の背で、そっと頬に散ったそばかすを撫でた
彼が起きることはない
静かな寝息だけが聞こえ続けた
銀河のほとりで眠りましょう
どうしてでしょう
エースはきっと最期の時もこうやって穏やかに笑って死んでいく気がする
私はそう思ったのです
きっと永遠を夢見るわ
※珍しくシリアスでした。エースがよく寝る原因を考えていたらこんな話が思いつきました
BACK
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送