ドリーム小説
飾 る !
「ちゃんはお化粧しないのかい?」
それは仕事後の湯場での、ユキノとの何気ない会話の中で言われたことだった。
「お化粧ですか?確かに、普段はあまり」
「どうしてだい。ちゃん、折角化粧映えしそうな肌してるのに」
そう言ってユキノはの頬をぷくりと押す。
弾力のあるきめ細かい肌。
は桶の湯を肩にかけながら答えた。
「似合わないんです。前に、子供が背伸びしたみたいだって言われたことがあるんです」
苦笑して、濡れた髪を纏めて留める。
ユキノは驚き呆れたように笑い返した。
「そんなことないわよ。ちゃん、お化粧したら絶対もっと綺麗になるわよ」
「でも元が元ですから」
自分を卑下するようには笑う。
ユキノは呆れたように溜め息を漏らした。
はわかっていないのだ。
が、女の眼から見てもどれほど魅力的であるか。
絶世の美女というわけではない。
だが、から滲み出る雰囲気やその立ち振る舞いが彼女自身を美しく見せているのだ。
勿論容姿も人並みに可愛らしい。
元がいいのだから化粧をすれば絶対にもっと良くなる。
ユキノはからかいも交えて囁いた。
「もう一度してごらんなさいな。だんなだって惚れ直すわよ、きっと」
「ユキノさんっ」
真っ白なの肌が俄かに赤くなる。
「あらあら照れちゃって。ね?試しに一度してみましょう?」
どうしても化粧させたがるユキノに、も最早断る理由が見つからない。
それほど嫌悪することでもない。
は一度だけならと渋々承諾した。
湯場から上がり、二人はユキノの部屋へと足を向けた。
『うーん。やっぱりちゃんにはこっちの色の方がいいかしらねぇ』
『あのぉ・・・女将さん?』
『ユキノでいいわよ、仕事中じゃないんだし。うん、これにしましょう。淡い色の方が似合うわね』
『ユキノさん・・・あの、鏡は』
『だぁめだめ。まだ見ちゃだめよ。出来上がってのお楽しみ』
『はぁ・・・』
そんな女二人の楽しげな声が部屋から聞こえてくる。
たまたま部屋の前を通りかかったシチロージは、二人の声に興味を持ち、障子を軽く叩いた。
「お姉さん方。楽しそうに、何をしておいでで?」
「おや、あんた」
ユキノの返事に、シチロージは障子をゆっくりと開けた。
「シチロージ様、開けないで下さい!」
「え?」
言われても時既に遅し。
の止める声が言い放たれた頃には、障子は開き、シチロージは中の二人を見下ろしていた。
シチロージの方を向いて笑みを浮かべるユキノと、背を向けている。
「ちゃん、どうかしたんでげすか?」
「・・・・・」
「ほぉら。見せておあげよ。今からこんなんじゃ、だんなになんか見せられないじゃないか」
「見せる気なんてありません・・・」
意地を張っているの腕を、やおらユキノはぐいと引っ張った。
均衡を崩し、は体勢を整えるため畳に手を付き、シチロージへ顔を向ける形となった。
やっとこちらを向いたの顔を見て。
シチロージは二人が何を騒いでいたか察した。
と目が合い、シチロージは笑みを零す。
何かとてもいいものを見つけたような、楽しそうな目。
シチロージの表情が変わったのを見て、は恥ずかしさに頬を染めて顔を背けた。
「おや、もうお終いでげすか?もっとよく見せてくだせぇよ、ちゃん」
からかい口調での側に寄れば、はますます顔を俯かせる。
可愛らしいその態度にシチロージは含み笑いする。
それで更にそっぽを向いてしまったに、シチロージは落ち着いた笑みを浮かべた。
「ちゃんは何を恥ずかしがってるんでげす。綺麗じゃぁありぁせんか」
「ですってよ。ほら自信を持って。顔をお上げなさいな」
二人に宥められ、俯いていたは渋々と顔を上げた。
「ほぉら。そうやって顔を上げてた方がずっといい」
「そうですぜ。折角の華が勿体無い」
ユキノとシチロージが満足気に微笑む。
「さぁ。それじゃぁ、だんなに見せに行こうか?」
「え!?」
ユキノの突然の言葉には慌てる。
は、本気かと問うた。
「何言ってるんだい、勿体無い。こんなに綺麗なのに、だんなに見せないなんて惜しいじゃないか」
「そうですぜ。カンベエ様の喜ぶ顔が目に浮かびますぁ」
「・・・喜んだりしないと思います」
カンベエは女の色香に惑わされるような人ではないとは思っていた。
それに何より、自分には色香など微塵もないのだから意味はないと思っていた。
たすきと前掛けを締めて、汗を流して、仕事に走るのが一番自分に似合っていると。
だが、もはやりおなごではあった。
時には、ユキノの美しい化粧姿に憧れることもあった。
いつも女として綺麗なユキノは、男であるシチロージの横に並ぶとより一層女らしさを上げる。
自分もあるいは化粧をしてそれらしく振舞えば、カンベエの横に立っても見劣りしないのではと思わないこともなかった。
女であるゆえの願望。
ユキノはを立たせ、その背を押した。
「何だってやってみなけりゃわからないものさ。ほら、行っといで」
「あぁ。カンベエ様はいつもの部屋で一人休んでおられるはずだ」
「なら、冷茶でも持っていって。今夜はもう仕事はないんだから、ちゃんも休んできなさいな」
やけに積極的な二人に押され、は渋々といった足取りでそこを後にした。
つ ぶ や き
ところでこのヒロインは年幾つなんだろう。
考えてなかった。。
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