ドリーム小説
仕事の合間。
カンベエの姿が見当たらず、はユキノに行方を尋ねた。
カンベエは、キララとともに街に出かけたという。
自分の嫉妬心にはもう慣れたと思っていたが。
いつもの如くちくりと痛む胸に、は小さな溜め息を吐いた。
破 る !
「ただいま戻りました」
カンベエとキララの帰宅をユキノとで出迎えた。
の視線は、自然とカンベエの手に行ってしまう。
カンベエはキララの荷物を抱えていた。
そんな僅かなことが、は羨ましいと思った。
キララがユキノとともに去っていく。
は笑顔でカンベエに声をかけた。
「お帰りなさいませ、カンベエ様。街はいかがでしたか?」
「うむ。相も変わらず賑わいでいた。ただごろつきも多かったがな」
そんなところをキララ一人で歩かせるわけにはいかない。
キララが虹雅渓差配の息子に狙われていることはも知っていた。
だからカンベエが護衛についていったことは納得がいく。
だが納得がいっても、やはり羨ましいものは羨ましい。
「楽しゅうございました?」
「まぁ、それなりにな。今日は路上芸人も多くいたしな」
「何か買われたりはしたのですか?」
「いや、何も。・・・どうした?」
カンベエは言葉を切ってを見た。
何故そんなにも興味を示すのか。
虹雅渓など、カンベエよりもの方が住まいは長いはず。
カンベエの視線に気付き、ははっとした。
何を自分は根掘り葉掘り聞いているのか。
これでは口煩い女房も同然ではないか。
不意にカンベエがふっと顔を緩ませた。
は疑問符を浮かべる。
「なんだ。わしがキララ殿と出かけたのが気になるのか?」
「それは・・・その」
は思っていたことを言い当てられ、言葉を濁す。
カンベエはより一層笑む。
「案ずるな。ただの遣いだ」
ぽんぽんとカンベエはの頭を撫でる。
は完全に子ども扱いされ、顔を伏せる。
わかっている。
カンベエは、遣いを頼まれたキララの護衛として行ったのだ。
だがは羨ましかった。
もまだカンベエと二人で街を歩いたことはなかったから。
それに何より。
護衛とはいえ、カンベエに守られたキララに嫉妬していた。
が考えていることは大体カンベエはわかっていた。
カンベエはの髪をそっと耳にかけてやる。
「。機嫌を直せ」
「そんな・・私は、別に」
とは言いつつも、はカンベエを見ようとしない。
カンベエは苦笑し、の頭を撫でた。
「次のお主の非番は、七日後だったな」
「はい。カンベエ様?」
「ともに街へ行くとするか」
不意のカンベエの言葉に、は顔を上げる。
見上げれば、カンベエは優しげに笑っていた。
「よろしいのですか?」
「嫌なのか?」
の答などわかっているくせに、カンベエは意地悪く問う。
はふるふると首を横に振る。
俄かにの顔に笑みが戻る。
その単純さが可愛いとカンベエは思った。
「約束ですよ、カンベエ様」
はカンベエの前に小指を差し出す。
カンベエは薄く笑み、その指に自分の小指を緩く絡ませた。
カンベエと約束を交わした日から。
は次の休みを心待ちに、あくせく仕事に勤しんだ。
いつもの笑みもより元気に満ちたものになり、そんなに周りも明るくなった。
約束の休みの日まで、後二日。
の心が躍る。
だが、の期待は、俄かに萎むことになった。
がカンベエたちの部屋に昼食を運びに行くと。
カンベエがいなかった。
それから。
キララもいなかった。
俄かにの中に不安が湧き出す。
「女将さん。あの・・・カンベエ様とキララ様は、また御遣いですか?」
「え?あぁ・・・あの二人なら」
ユキノに問いかければ、どういうわけかユキノは冷や汗をかいて目をそらす。
の不安が一層高まる。
そのとき、二人の会話を聞いていたコマチが無邪気な笑顔で告げた。
「おっさまとねぇさまは、さっき街に出かけたです」
「街に?御文でも?」
「違うです。用があるのはおっさまで、ねぇさまはおっさまに誘われて行ったですよ」
コマチの言葉に、すぅとの顔に影が落ちる。
の様子に、ユキノは顔をしかめた。
カンベエとキララが。
また二人で街に出かけた。
それも今回はカンベエがキララを誘って。
の頭の中に、逢引という嫌な言葉が浮かぶ。
その日、夕方近くになってようやくカンベエとキララが帰ってきた。
はコマチとともに二人を出迎えた。
「ねぇさま、お帰りなさい!」
「お帰りなさいませ、キララ様・・・カンベエ様」
コマチがキララに飛びつく。
はできるだけ自然な笑顔を心掛けた。
「キララ殿。すまんな、妙なことに付き合わせて」
「いぃえ。街を歩くのは好きですから。私も楽しませていただきました」
二人の仲のよい会話に、はじわじわと悲しくなっていく。
キララとコマチがその場を後にし、カンベエとは向かい合った。
カンベエは、自分をじっと見つめるを不思議そうに見返す。
「どうした?」
いつもと同じように尋ねてくるカンベエ。
自分はあんなに不安で一杯だったのに。
何だか居たたまれなくなり、はくるりと背を向けた。
嫉妬に狂う醜い顔を見られたくなかった。
も頭では理解では理解していた。
カンベエに非はない。
カンベエは約束を破ってはいないのだから。
次のの休みに出かけようと言っただけで、その日まで誰とも出かけないとは言っていない。
が何か言う資格はないのだ。
黙ったままのの背は、不安と悲しみに満ちていた。
その心が、カンベエは容易に理解できた。
「今日は何も聞かぬのか?」
が嫉妬から拗ねていることはわかっていた。
だがどうしても街に出て、やっておきたいことがあった。
キララと出かけることを知ればは悲しむ。
だからユキノにのみ告げたのだが、どうやらどこからか漏れてしまったようだ。
背を向けたままだったが、ゆっくりと首をめぐらせた。
泣いてこそいないものの、の目は揺らいでいる。
「聞きたいことがありません・・・」
「」
「カンベエ様は約束を破っておられないのですから、私がどうこう言う資格などありません」
は前に手を組み、ぎゅっと指を握り締めた。
誓いを交わした細い小指が、じんと熱を上げる。
「仕事に戻ります・・。カンベエ様も、お夕食の準備が整っておりますのでお部屋に」
「」
立ち去ろうとしたをカンベエは呼び止める。
振り向かないの背に、カンベエは言葉を投げかけた。
「約束は二日後だ。忘れておらぬな」
の胸が僅かに軋む。
その日を楽しみにしていたはずなのに、どうしてか今は嬉しくない。
は僅かに振り向き、薄い笑みを向けた。
「はい。勿論、忘れてなどおりません」
「・・・そうか」
それ以上会話は続かないと悟り、は足早に仕事に戻った。
それからのの働きぶりは変わらず、むしろより一層仕事に勤しんだ。
人の仕事まで進んで引き受け、は休憩すら惜しんだ。
カンベエに声をかける隙を与えたくなかった。
二日後の朝。
今日一日非番のは、朝食の準備の席にいない。
だが非番の日でも、いつもは朝の挨拶にカンベエたちを訪れていた。
それなのに今日は来ない。
皆が不思議に思っていた。
朝餉の後、カンベエはユキノを捕まえの行方を問いかけた。
だがユキノも今日はまだの姿を見ていないという。
「ちゃんが寝坊だなんて初めてですよ」
起こしてきますね、とユキノはの部屋に向かった。
完全にの機嫌を損ねてしまったとカンベエは溜め息を漏らす。
今日一日ともにいられるとはいえ、が機嫌を直してくれるかどうか。
そんなことを考えていたときだ。
慌しい足音とともにユキノが戻ってきた。
「だんなっ」
「いかがした、女将」
焦るユキノの手には、一枚の紙。
カンベエの目に、の見慣れた綺麗な文字が並んでいた。
『街に出かけてきます。遅くならないように帰ります』
「・・・一人で行ったのか」
カンベエは僅かに苦い顔を浮かべる。
まさかあの大人しいがこのような行動に出ようとは予想もしなかった。
虹雅渓は賑やかな都会とはいえ、ごろつきも多い。
女が一人で出歩いて安全とは言えない。
同じ想いなのか、ユキノも頬に手を添えて溜め息を吐く。
「だんな。すみませんが、ちゃんを探してついててもらえません?」
「無論、そのつもりだ」
「お願いしますね。できるだけ急いで見つけてやって下さいな」
「何か心配事か?」
急かすユキノに、カンベエは問いかける。
ユキノは以前が言っていたことを思い出していた。
『ユキノさん。私、街に出ると、いつも決まってある方に会うんです』
『まぁ。そんな偶然もあるものなのねぇ』
『その方、いつも私に声をかけて下さって。何だかいろんなものを買って下さろうとするんですよ』
そう言っては苦笑する。
『すごい冗談を平然と言われるんですよ』
『冗談?』
『はい。もう何も仕事はしなくていいから、自分のところで暮らせって』
楽しそうに話すとは裏腹に、ユキノは不安になった。
『ちゃん』
『はい』
『その人・・・女の方?』
『いえ。私と変わらないくらいの男の方です』
「それは・・誠か」
話を聞いたカンベエの顔は、俄かに不安で埋め尽くされた。
「ちゃんは、悪い人じゃないって言うんですが。でもあの子、人を疑うことを知らないから」
はただでさえ人を疑うことを知らない。
頭はよいくせに、騙されているかもと考えない。
最悪の事態になってからでは済まされないというのに。
「すまぬ、女将。でかけてくる」
カンベエは脇に置いていた刀を掴み、足早に蛍屋を後にした。
空は快晴、風は穏やか。
すれ違うカンベエとの心に一筋の風が吹きぬける。
つ ぶ や き
さて。誰でしょうね。
虹雅渓はそこまで危険な街ではないと思うのですが、ここではこんな設定で。
原作無視ですみません。本当なら侍改めに捕まりますよ、カンベエさん。
コマチのしゃべり方がわからないとです。
これじゃヒロシだ。
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