ドリーム小説
バレンタインの夜に交わした約束。
14日に一緒にいられなかった代わりに、土日にがカンベエの家に泊まりに来てゆっくり過ごす。
は渡せなかったチョコケーキをカンベエの家で作るべく、たくさんの材料を持参でやってきた。
ブラウスにスカートという可愛らしい私服の上に赤いエプロンをつけてキッチンを動き回る。
邪魔にならないように後ろで結わえた髪や嬉しそうに揺れる柔らかいスカート、カシャカシャと小気味よい音を立ててケーキを作るを、カンベエはソファーで足を組んで眺めていた。
手の中に広げた新聞はなかなか先に進まず、先程から同じページで留まっている。
学 園 幻 想 曲 EXTRA HONEY SUNDAY
「どれくらいでできるのだ、それは」
「えっと・・・だいたい1時間くらいです」
「ほう。結構かかるものなのだな」
「あ、でも焼く時間も含まれてますから、後10分もすれば終わりますよ」
キッチンからカウンター越しには微笑んでそう告げる。
彼女の手元では先程から低い機械音が唸り声をあげていた。
僅かながらに興味を抱いたカンベエは進まない新聞をガラステーブルに置いてキッチンへと足を向けた。
カウンターに両腕をついて向こう側にいるの作業を観察する。
彼女は片手でボウルを押さえ、片手で電動泡立て器を持って白い泡を立てていた。
「それは」
「これですか?メレンゲです」
卵白と砂糖で作るのだとは説明する。
ふわふわの優しい白をは丁寧に泡立てる。
そしてスイッチを切って、まるで雲で満たされたようなボウルをカンベエに見せた。
「味見なさいますか?」
「よいのか」
「はい。ちょっと甘いですけど」
は自分の指でメレンゲを少し掬い取り、舐めてみた。
原材料が砂糖だけに確かに甘いが、カンベエのためにできるだけ甘さは抑えてある。
満足げな顔をするを見て、カンベエも興味がそそられた。
指で掬って舐めて「甘い、が。ちょうどよいな」と感想を述べる。
「それはよかったです」とは笑みを向けて次の作業へと移っていった。
手伝おうかとカンベエは申し出たが、がどうしても自分ひとりで作りたいと言うので仕方なくカウンターに頬杖をついて彼女を眺めることにした。
手際よく料理を作る恋人は見ていて飽きることはない。
「器用なものだな」
「もう何度も作ってますから」
失敗もたくさんしましたし、とは舌先を見せて苦笑する。
彼女はそう言うが、の料理の腕がなかなかに高いことをカンベエはよく知っていた。
今までにも何度もここに来て食事を作ってくれたことがある。
「下手に店に行くよりずっと旨い」とカンベエが言ったとき、は本当に嬉しそうに笑ったものだ。
「先生」
「ん?」
「お暇・・じゃないですか?」
「いや。見ていて飽きぬよ」
「でも、ただ生地をこねているだけですよ?」
「いや・・・」
頬杖付いたままのカンベエの目がを上から下へと検分するように行き来する。
そして彼の口が良からぬことを考えるときのそれのようににっと上がるのを見て、はボウルを抱えたまま一歩後ろに引いた。
「な、なんですか・・?」
「なに。ただ私服のお主が珍しくてな」
「そ、ですか?」
「あぁ。女らしく見える」
「・・・どうせ私は子どもですよ」
「いや、そうではなく。お主、今日は化粧もしているであろう?」
カンベエに指摘され、思わずのこねていた手が止まる。
どうしてわかったのだろう、と驚いた目をしていた。
それはとても薄化粧で、近付いて見なければわからないくらいなのに。
の心を覗いたようにカンベエはにやりと笑う。
「のことでわからぬことなどない」
「う、嘘ばっかり・・・っ」
恥ずかしさを隠すようにはそっぽを向いてカシャカシャと慌てたように生地をこねる。
髪をくくって表に出た耳が赤いのを見て、カンベエはふっと笑みを浮かべた。
チンッ、と電子音が鳴って、オーブンが余熱で温められたのを知らせてくる。
はスイッチを切ろうとするも、両手が生地でべたべたなのを思い出した。
軽く慌てるを見て、カンベエがカウンターを周ってキッチンに入ってきて代わりにスイッチを止めてくれた。
「すみません、ありがとうございますっ」
「あぁ。この程度ならば手伝ったうちに入らぬであろう」
「はい・・・・あ、生地!流さなきゃっ」
子ネズミのように動き回るにカンベエは邪魔にならぬよう道を空けてカウンターに寄りかかった。
用意していた小さい丸型のケーキ型にはゆっくりと生地を流していく。
片手でボウルを支えて片手でゴムべらを操るのが不便そうで、カンベエはの持つボウルを支えてやった。
は目配せと口元に浮かべた笑みでカンベエに礼を言い、ボウルに付いた生地を全て型に入れていく。
カウンターの上に何度か型を落として生地から空気を抜き、オーブンに入れて時間を設定してスイッチを押した。
「うん、オッケーです」
「どれくらい焼くのだ」
「30分くらいです。その間にここを片付けて・・・」
汚れたボウルなどが置かれたキッチンを見回していたの目が、ふとある一点で留まる。
次いで「あーーっ!!」とは珍しく大声を出して叫んだ。
カンベエも何かあったのかと身構える。
「どうした、」
「・・・忘れました・・」
「何をだ」
「・・これ・・入れるの忘れました・・」
そう言って眉を歪めるの視線の先にあるのは、先程泡立てていたメレンゲ。
汚れた調理器具で囲まれながら、取り残されたようにぽつんとそこにある綺麗なメレンゲ。
メレンゲがケーキに入れるものだとは知らなかったとカンベエは思わず感心してしまう。
「ほう。これは材料であったか」
「あぁもう・・馬鹿だ、私」
「そう言うな。これは絶対に入れねばならぬものなのか」
「いえ、そんなことないですけど・・・入れるとケーキがしっとりしてもっと良くなるんです」
あ〜とかう〜とか唸っては唇を不満げに尖らせる。
菓子作り一つにしても真剣というか、几帳面というか。
割りと完璧主義な彼女にカンベエは苦笑する。
「まぁ、よいではないか。ひどい失敗でもあるまい」
「でも・・・どうせなら一番良いものを渡したいじゃないですか」
「その気持ちだけでわしは十分だ」
「うぅ・・・メレンゲ、折角こんなに作ったのに」
まだ綺麗に角を立てるメレンゲの入ったボウルをは不満そうにクルクルと回す。
他に使い道はないのかとカンベエが問えば、ケーキに塗れるがそれでは甘すぎてしまうとは言う。
結局後で捨てることとなり、はふぅと溜め息をついた。
その肩をカンベエはポンポンと叩いてやる。
「一段落したのなら少し休んだらどうだ」
「・・はい。そうですね」
「そう落ち込むな。コーヒーでも飲むとしよう」
の肩をポンッと叩いて、カンベエは棚から2つのマグを取り出した。
一つはカンベエ愛用のもの、もう一つはがここに置かせてもらっているもの。
カンベエの家に自分の物が置かれているということが、にとってはたまらなく嬉しい。
並んだ2つのマグを見て、は尖らせていた唇をふっと緩めて小さく笑んだ。
カンベエはブラックコーヒー、はミルクだけ入れて、2つのマグをリビングのガラステーブルの上に置いて2人はソファーに腰を下ろした。
がエプロンを外して横に置いたのを見て、カンベエは彼女の肩に手を回して体を引き寄せた。
不意をつかれ、は彼の肩に頭を預けて僅かに身体を緊張させる。
今日、初めての触れ合いに胸が高鳴る。
カンベエの手が優しくの髪を撫でる。
後ろで結わえた髪ゴムを外し、ガラステーブルの上に置いた。
滑らかなの髪に上から下へと指を通して感触を楽しむ。
身体に直に触れられているわけでもないのに、は自分の身体が熱を上げていくのを自覚していた。
「ところで、」
「はい・・」
「泊まる用意はしてきたのか」
「あ・・はい」
「そうか。ならば良いな」
何が、と問う前にカンベエは顔を傾けての唇にキスしてきた。
軽く触れるだけで少し顔を離せば、それだけでの頬は赤く染まっていた。
落ち着きなく目を瞬かせてカンベエを見たり目をそらしたりする。
スカートの膝の上でギュッと握られている拳を見て、カンベエは片手を取って指を開かせ、己の指を絡め合わせた。
途切れることなく小さな口付けを落とし、わざとリップ音を立ててやる。
目元を朱に染めて、瞬く彼女の瞳が次第に潤ってきたのを見て、カンベエは満足そうに笑んで彼女の耳に口を近づけた。
「」
学校では滅多に口にしない名前を呼んで、猫同士の触れ合いのように顔を摺り寄せて白い首筋に唇を寄せる。
細い首に上に下にと唇を滑らせながら、カンベエは空いた手でブラウスのボタンを一つ二つと外した。
再び耳元で名を呼ばれ、流されていたははっと我に返る。
カンベエに名前を呼ばれたことに気付いて軽く慌てた声を出せば、彼に僅かに下から見上げられて目をそらした。
カンベエがの名を呼ぶとき。
それは彼が彼女を求めるとき。
まさかこんな朝から、しかもケーキの様子も見なければならないのに、とはボソボソと呟く。
「嫌か」
「い、嫌とかではなくてですね・・・あの・・その質問はずるい、です」
「あぁ、わしはそういう男だ。よくわかっておろう?」
は唇を引き結んで押し黙る。
その間にもカンベエの指がゆっくりとブラウスのボタンを外しにかかっていた。
その指を止めようとは思わなかった。
もカンベエに求められることは嬉しかったから。
抵抗しないに気をよくして、カンベエはスカートからブラウスの裾を引っ張り出した。
背中から手を差し入れ胸の下着のホックをパチンと外され、は小さな声を漏らす。
「先生・・っ」
「まだ何かあるのか」
「あの・・・あ、ケーキがっ」
「鳴ったら見に行けばよかろう」
「でも・・・っ」
「」
小さな抵抗を続けるの耳に、不意にカンベエの真剣な声が届く。
じっと目を見上げられ、今度はその目をそらせなかった。
「先週はわしが出張で週末は会えずに終わったな」
突然確認するように問われ、は戸惑いながらも「はい・・」と答えた。
カンベエの指がまた一つボタンを外す。
緩められた下着が少しずつ始め、ブラウスの前を合わせようとするの手をカンベエが制した。
「その前の週はお主がバイトで会えなかった」
「はい・・・」
「わしがどれほど待っていたかわかるな?」
悪戯っ子のように妖しく微笑まれ、は情けない顔で「・・・はい」と観念するしかなかった。
まだ土曜の午前中だというのに、いきなりかと焦り半分嬉しさ半分ではキッチンに視線を投げる。
まだ5分も経っていないが、早くオーブンが鳴ってくれないかと念じた。
「余所見をするとはなかなかに余裕だな」
「んっ・・違ぃます、よ・・っ!」
「ならばよい」
「やっ・・・先生・・っ!?」
「2週間分、いただくぞ」
覚悟しておれ、と楽しげに笑うカンベエには半泣きで笑うしかなかった。
2人の甘い時間はこれから始まる。
相変わらずベタベタです。
狼ですな、カンベエさん。
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