ドリーム小説
秋空の下開催される神無学園高等部の一大イベント。
それは球技大会。
高等部全てのクラスが男女に分かれて競い合うという一風変わった秋のイベント。
「3年生」対「1年生」などということも容易にありうる、くじ運次第な球技大会である。
そしてこの大会には生徒外から特別チームも参加していた。
職員室の体育会系教師を選りすぐった強豪、教師チーム。
体育科の先生をはじめ、剣道部顧問の島田先生、副顧問の片山先生が集う優勝候補。
生徒からの「ずるい!」の非難は職権乱用で一喝のとんでもないチームである。
今年の男子の目玉種目は「野球」。
そして今年の決勝戦は、3年7組男子対教師チーム。
一進一退を繰り返しながら、現在9回裏。
これで勝負が決まる、最大の見せ場となっていた。
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マウンドで足場の砂を蹴り、キャッチャーがミットの下で送る合図にキュウゾウは静かに頷く。
三塁ベース付近では、ヘイハチが緊迫感のない笑顔でグローブにぱんぱんと拳を叩きつけている。
申し分ない配置で守備する3年7組。
ピッチャーキュウゾウを前にホームベースでバットを構えるのは、4番島田先生。
「来い、キュウゾウ」
「・・・参る!」
ザッ、と片足を上げて腕を振りかぶり、キュウゾウが放つ変化球をカンベエがファールにする。
キュウゾウがストレートを放とうとフォークを投げようと、カンベエが打ってファールにする。
こんなやり取りがしばらく続いていた。
周りで見守るギャラリー、特に3年7組の女子は黄色い声を上げて自分のクラスの男子を応援している。
友人たちがきゃーきゃーと騒いで声高にキュウゾウを応援する中、は微妙な笑みでグラウンドを見つめていた。
ここは自分のクラスを応援するのが筋というものなのだろうが。
が本当に応援したいのは恋人であるカンベエなのだからさて、どうしたものか。
そんなことに逡巡していれば。
「!やっと見つけた!」
焦りと怒り混じりで名を呼ばれ、後ろから肩を叩かれた。
振り向けば、が出場している種目のチームメイトが「早く早く!」と焦り顔でいた。
「!もう何してんのよ、こんなところで!」
「え、あの・・男子、の応援?」
「なんで疑問系なの?!あぁ、まぁいいや。それより早く!」
「な、なに?」
「なにじゃないわよ、うちら決勝よ!」
「え、もうそんな時間なのっ?」
「そうよ、ほら早くして!もう1年生待ってるんだから」
そうなのだ、が出ているバレーボール3年7組女子もまた決勝に残っていた。
そして決勝の相手はなんと1年7組女子。
そこにはバレー部のエース、アタッカーのミズキがいる。
1年生ながらに7組が決勝まで残れたのは彼女のおかげ。
背が低いながらに強力なスパイクを打つ彼女がいるため、1年7組女子は全試合ストレートで勝ち進んできたのだ。
「あんたがいなきゃ、誰がミズキって子のスパイク止めるのよ!」
「そんな大袈裟なぁ。私がいなくても何も問題は」
「あーもー呑気すぎ!ほら行くよ!」
そんな弱気なことを言いながら、はずるずると体育館へと引き摺られていくのだった。
後ろ髪引かれる想いで最後に一度だけグラウンドを見れば、カンベエがまたしてもファールを出したところだった。
できれば先生に勝って欲しいなぁなどと笑みを浮かべながら彼女は自分の試合に向かった。
それから10分後。
結局男子野球決勝戦を制したのは。
「3年7組男子の勝利―!!」
という結果となった。
キュウゾウの渾身の一投をカンベエの渾身のスウィングが打ち抜き、ボールは超低空で二塁と三塁の間の左中間へと飛んでいった。
カンベエはじめ、教師陣が「勝った」と思った瞬間。
「ヘイハチ!」
「がってん承知の助!」
キュウゾウのかけ声に答えるように、三塁を守備していたヘイハチが思い切り横っ飛びした。
「米がっ!食いっ!たーーーいっ!!」
「なにーっ!?」
レフトについていたヘイハチが横っ飛びでグローブを伸ばし、ノーバウンドで剛速球を捕ったのだ。
それによって教師チーム、スリーアウト、試合終了である。
部活の教え子に勝利を奪われ、思わず苦笑するカンベエ。
ゴロベエもぱんぱんと自分の頭を叩いて、「これはやられたわ」と潔く大笑いしている。
救護班で参加できなかったシチロージは「お疲れ様でした」とカンベエに声をかけた。
「残念でげしたね」
「あぁ。若い者にはもう敵わぬな」
「またまた、カンベエ様はそのようなことを」
「いや。今日の部活で何を言われるやら」
まさか顧問をする剣道部の生徒2人に負けることになるとは。
また、やれ奢れ、外周を減らせと言ってくるに違いない。
カンベエは苦笑して肩に手を置いてぐるぐると回した。
「男子の種目はこれで全て終わりか」
「そうみたいですね。あと残っているのは女子の・・・」
はて何だったか、と思い出そうとしていた、そのときだ。
体育館からどぉっと喚声が溢れてきたのは。
グラウンドにいた者たちも一斉に体育館に視線を向ける。
あまりのどよめきに「何の種目ですかね」と不思議そうにするシチロージとカンベエの耳に生徒たちの声が届く。
「ヘイハチ、キュウゾウ!応援に行こうぜ!」
「何ですか、一体」
「うちのクラスの女子バレーボール決勝だよ。すげーぞ!」
とにかくリベロがすごい、と噂が立っている。
3年7組といえば、カンベエの「いい子」がいるクラスだ。
興味を引かれたシチロージとカンベエは生徒の流れに沿って体育館へと向かった。
体育館内の熱気は凄まじいものになっていた。
3年7組女子対1年7組女子のバレーボール決勝。
点数は一進一退を繰り返す超熱戦。
コートに立つ女子選手全員が汗を流して真剣な目をしている。
ギャラリーからは両チームの白熱の応援。
1年7組のエースミズキと、3年7組のリベロの噂がひっきりなしに立っている。
「誰だよ、あの3年のリベロ。バレー部にいないよな?」
あのバレー部のエース、ミズキのスパイクを彼女は一つも零していない。
バレー部でもない彼女は何者だ、と。
ギャラリーに混じって試合を観覧していたカンベエとシチロージは噂に耳を傾けつつ嘆息する。
「まさかちゃんが図書委員の帰宅部だとは誰も思わないでしょうなぁ、カンベエ様」
「そうだな。いやしかし・・・驚いたな」
チームの中で一人だけ違う色のゼッケンをつけて後方から相手コートを凝視している。
3年7組のリベロを務めているのは、だった。
ミズキが打ち込む鋭いスパイクに素早く反応して、ことごとくレシーブしている。
床に叩きつけられるのを覚悟で真横に飛んでは、仲間にボールを繋ぐ。
これほどの反射神経の持ち主が、なぜ今まで注目されなかったのか、不思議なくらいである。
「はい、上げたよっ」
「任せとけ、!」
がレシーブした球をチームメイトが相手コートに叩きつけた瞬間、体育館の天井高くまでホイッスルが鳴り響いた。
女子バレーボール決勝、3年7組の勝利である。
コートに座り込んだままののもとにチームメイトがなだれ込んで来る。
「やったね!」
「すごいじゃん、あんた!」
「え・・え・・・?」
「うちら優勝だよ!!」
「え・・・・優勝?え?」
周りの仲間にもみくちゃにされて始めは混乱していただが。
「あんたのおかげだよ、」
姉御肌のチームメートにくしゃくしゃと髪を撫でられ、もようやく勝利を実感したらしい。
の顔に、じわじわと笑みが浮かんでいき、それは抑えられないくらいの大輪の笑顔になるのだった。
「あーらら。いい顔してますねぇ、ちゃん」
2階のギャラリーの手すりに寄りかかって観戦していた2人は、笑顔の彼女を静かに見つめていた。
「普段の大人しいちゃんしか見ていないせいでしょうかね。驚かされました」
「それはわしとて同じよ。あやつもあのような顔をするのだな」
彼女の意外な一面に面食らいながらも、見たことのない嬉しそうな顔で笑う。
そんな彼女をカンベエは遠くから笑んで見つめていた。
「カンベエ様も大変でげすね」
「ん?何がだ」
「だって、この大活躍でちゃんに想いを寄せる男どもが増えるのは確実ですぜ」
「・・・・シチロージ」
「頑張ってくださいよ、カンベエ様」
どこか楽しげに笑いながら、シチロージは一足先にと去っていった。
カンベエはやれやれとため息をつき、視線を階下へと戻した。
コートでは優勝チームが記念撮影をしている。
仲間にもまれながら、前列の中心で笑っているを見て、カンベエは優しく笑うのだった。
放課後の教室に一人。
夕日が差し込む3年7組の黒板には3枚の賞状。
は黒板の前に立って、笑顔でそれを眺めていた。
男子野球優勝 3年7組殿。
女子バレーボール優勝 3年7組殿。
女子バレーボールMVP 殿。
「やったね・・・」
「随分と嬉しそうだな」
「え・・!」
突然声をかけられて弾かれたように後ろを向けば、いつの間にかカンベエがそこに立っていた。
驚くに笑みを向けて、彼女の横へ並ぶ。
貼られた賞状を眺めて、「驚いたな」と声をかけた。
「まさかお主がこんなにも凄い運動神経の持ち主であったとは」
「そ、そうですか?」
「うむ。何ゆえ運動部に入らなかったのだ」
「え、と・・・。そうですね・・・・運動するのは好きなんですが、やっぱり本読む方が何倍も好きだったので」
3年間を図書委員に費やしてしまった彼女を、試合後バレー部顧問の先生は殊更に「勿体無い!」と嘆いていた。
更には決勝で戦った1年生のエースミズキに殊の外気に入られ、「先輩!先輩!」と試合後追いかけ回された始末だ。
「運動神経はあろうとも普段動いておらぬ分、疲れたであろう」
「えへ・・・はい、少し。島田先生もお疲れ様でした」
「ん?いや、負けてしまったがな。お主のクラスの男どもに」
「あは。しかもキュウゾウ君とヘイハチ君ですしね」
2人ともカンベエが顧問を務める剣道部のエースなのだから、これでは顧問の面目が立たない。
己の負けをカンベエは苦笑するが、はそんな彼を横からこっそりと見上げて笑みを浮かべた。
昼間のカンベエの姿が目に浮かぶ。
普段スーツで教卓に立つカンベエが髪をくくってシャツ姿で走っていた姿は、思いのほか格好よかった。
一度だけ武道場を覗いて、カンベエの道着姿を見たことがある。
あのときとはまた別の一面を見ることができてよかった、とは忍び笑いをする。
「先生、明日筋肉痛じゃないですか?」
「それはあれか。わしを年寄り扱いしておるのだな」
「いえいえ、そんなぁ」
「そういうお主こそ全身擦り傷だらけではないか。今夜の風呂はしみるぞ」
「うぅ・・・わかってます」
唇を尖らせて彼女はブラウスの袖をまくってみせる。
両腕の内側が内出血ですでに青紫色になっていた。
だが彼女は嬉しそうに「名誉の負傷です」と笑って言う。
普段図書室で大人しく本を読んでいる彼女からは想像もできない。
快活で無邪気なにカンベエは思わず笑みがこぼれる。
「よくやった」と頭を撫でてやれば、彼女は驚いたような顔をしたが、すぐにはにかんで笑った。
緩んだ笑みのの額に、カンベエは不意打ちのキスをした。
驚きの目でカンベエを見上げる彼女に、「勝者へ」とカンベエは苦笑する。
「先生・・」
「ん?」
「校内接触禁止の約束は?」
「まぁ・・・優勝祝い、ということにしておこう」
カンベエの言葉に、の唇が嬉しそうに弧を描く。
「先生も」
「なんだ」
「先生もかっこよかったですよ?」
「それは光栄だな」
「だから、先生にも」
彼の腕を引いて、椅子に座ってもらい、カンベエの肩に手を置き、彼の頬に口付けた。
自分のすぐそばでにっこりと笑う彼女の笑顔に、カンベエはその白い頬に手をよせて、照れた赤い目元を愛しげに指で撫でた。
今だけは、世界でただ一人、貴方だけのヒーローでありたい
野球もバレーも全然わかりません、すみません!
間違っているところがあれば教えて下さい!
なにげにミズキが好きです。
元気があってさばさばしているところがかわゆい。
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